書き出しをどうする

(読書感想文)

 

「私は食べ物が好きだ。

 特に好きなのは、おいしい食べ物だ。」(グルメ・エッセイ)

 

「最近、気がつくといつも一つのことを考えている。

 何かといえば、それは『ちょんまげ』のことだ。」(疑惑の髪型)

 

「今までに入った風呂で、いちばん思い出ぶかいのは、

 やはり何といっても△△山の『ロープウェイ風呂』だ。」(△△山の思い出)

 

「たとえば、何も考えずにぼんやりしているような時に、

 心の片隅でちいさく『ホッホグルグル』とつぶやく声がする。」(ホッホグルグル問題)

 

 

こういう書き出しに接して、「この先を読みたい」と思わない人がいるでしょうか。

 

岸本左和子『ねにもつタイプ』(ちくま文庫)をジャケ買いしました。

帯(腰巻ともいう)に「講談社エッセイ賞受賞!!」とあるので、

エッセイだと思って読み始めましたが、

6篇目のロープウェイ風呂を読み終わってようやく気付いたのは、

これはエッセイ集というよりも、不思議な着眼点を持つ掌編小説集という方が

ふさわしい、ということです。不思議な着眼点の中には、

「どうしたらそういう発想ができるのか?」と問いただしたくなる独創性と、

「あーそれわかる!」という共感が各篇の中に同居しています。

ホッホグルグルって何だよ(※)、と思う一方で、

あるフレーズに頭の中を支配される経験は、誰にでもあることです。

 

収録された52篇は、各3ページ+さし絵1ページ。

文字数にすると1篇あたり1500字程度と、小説と見るとごく短い各篇ですが、

もしもこれが広告コピーだったらかなりの大作と言える文字量で、

これを読ませるために、「書き出しをどうするか」は重要な問題です。

そこで冒頭に引用した、独創的かつ共感を呼ぶ書き出しにつながるわけです。

広告制作会社のブログなので、それらしいことも少しは言わなきゃね。

 

著者の岸本さんは翻訳家で、本書は1冊目のエッセイ集(単行本は2007年)。

Wikipedia情報によると中学時代に筒井康隆の洗礼を受けたそうで、

私は、本書の一篇「奥の小部屋」を読んでピンときました。

「脳の迷路をいくつも抜けたうんと奥の方に、薄暗い小部屋があって…」で始まる

前半部分には、筒井さん円熟期の長編『夢の木坂分岐点』の影響が読み取れるし、

後半で場面がくるりと変わるところは、初期の短編「(あえて伏せる)」そのものです。

上記はほんの一例。筒井ファンにはもう一つの楽しみ方ができる、

岸本左和子の『ねにもつタイプ』。おすすめです。

 

続刊『なんらかの事情』もちくま文庫から発売中。これまたなかなか!

 

Shoji

 

※「ホッホグルグル」とは、オーストリアにあるスキーリゾート、

 「オーバーグルグル=ホッホグルグル スキーエリア」の一部地名で

 あるらしいことが、その後の調べでわかりました。

 となると次の疑問は、もちろん「グルグルって何だよ」です。